ブログ
【対談】kintoneでAIをやる意味ってなに? これからのAI活用に訪れるAIエージェントとリアルタイム生成
2024年11月に開催されたCybozu Daysでは、126のkintone関連サービスが展示され、そのうち40ブースがAI関連であるなど、エコシステム内でもkintone×AIが非常に盛り上がってきた。
また、kintone本体でもAIアシスタント機能の実装が発表されるなど、今後の展開にはますます目が離せない。
そんな中、今回はM-SOLUTIONSの提供するkintone内のデータを活用したkintone連携サービス「Smart at AI」と同時期に公表された、株式会社ショーケース「Associate AI Hub for kintone」の事業部長:中野様と対談を行った。
「Associate AI Hub for kintone」はどんなAIサービスなのか、開発秘話などを交えながら、AIベンダーの取り組みに迫る。
通信からAIへー株式会社ショーケース:中野氏について
中野氏:株式会社ショーケース、中野 和俊(なかの かずとし)と申します。
大学卒業後、沖電気工業株式会社で通信系のソフトウェアエンジニアとして勤務しておりました。
ジェフリー・ヒントン教授の「AlexNet」に触発され、AIに興味を持ち、2017年には働きながら北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)にてAIの研究でコンピュータサイエンス修士を取得しました。
その後、AIベンダーでプロダクトマネージャーを務めたのち、ショーケースに事業譲渡され、AI事業とともにショーケースに入社しました。
植草:AI事業とともにジョインされたんですね。
AI事業というのはChatGPTが出る以前のお話ですか?
中野氏:はい、2018年~2019年のChatGPT登場前の話です。
当時はAIチャットボットを手掛けておりました。
ChatGPTのようなLLM(大規模言語モデル)ではなくディープラーニングやマシンラーニングを用いたAIで、あらかじめ用意した回答から、うまく選んで回答してくれるタイプのチャットボットです。
植草:その頃、私もディープラーニングや画像認識などに注目していましたが、普及はまだまだ難しいのかなという印象でした。
中野氏:おっしゃる通りです。
当時のAIレベルでは、まだまだ主流になるのは難しかったですね。
ところがショーケースにジョインしてから半年も経たずにChatGPTが登場したときは、『これはAI界隈で大きな転換点になるぞ』と思いましたよ。
Associate AI Hub for kintone、kintone開発の手間をAIで削減
中野氏:『kintoneでの業務をサポートしてくれる「kintoneの専門家AIアシスタント」があったら、kintoneユーザーの日常がもっと良い物になるのでは』というコンセプトで開発されたのが「Associate AI Hub for kintone」です。
言葉や文章で指示をすると、AIがアプリを作成したり、カスタマイズを行ったりするサービスとなっています。
Associate AI Hub for kintoneの詳細はこちら |
中野氏:M-SOLUTIONSさんは、kintoneに関するビジネスを長年手がけられており、お客様への解像度が高いと感じております。
Smart at AIも、しっかりとkintoneの特長やニーズがコンセプトに落とし込まれている印象です。
Smart at AIとは:誰でも簡単・安全・効率的にkintoneの情報(データ)を用いてChatGPTなどの生成AIが利用できるようになる、M-SOLUTIONSが提供するkintone連携サービス |
植草:いえいえ、最初は本当に悩みました。
この形(プロンプトを設定画面で事前登録する方式)になったのも、半年かかっています。
逆にショーケースさんの「Associate AI Hub for kintone」は、アプリを作る・カスタマイズをするっていう分野を狙った点が非常にチャレンジだなと思いましたよ。
中野氏:そうですね。
正直、2023年時点でのGPT-4では、そこまで精度の高いコード生成は期待できなかったため、1年後、2年後にAIが進化した際に完成し、使われるサービスになればと前倒しして挑戦した次第です。
幸いなことにAIの進化は凄まじく、OpenAIの o1やo3も公開されようとしています。
o3になると、プログラミングレベルは世界上位レベルになると言われており、精度向上は間違いないでしょう。
OpenAI o1・o3とは:どちらも複雑な推論を実行するOpenAI社の提供する高性能AIです。4oモデルよりも計算やプログラミング力が大幅に向上し、深い思考が必要な問題を解決できます。 |
「何かやらないとヤバい」―開発の経緯と現在の苦悩
中野氏:2023年3月頃、Open AIのAPIが公開された際「うちも何かやらないとヤバいよね」と Slack上でチームメンバーにメッセージを送ったのが最初でした。
そこから「kintoneで何かできないか」と社内議論が始まり、サイボウズさんとも意見を交わしながら、正式にプロジェクトが動き始めたというのがサービス開発の経緯です。
植草:私たちも2022年にChatGPTが登場したときに「何かやらないといけないよね」と感じておりましたが、先ほどもお話しした通り、半年以上かけても「これだ!」という形に辿り着けませんでした。
2023年夏頃にようやく今の形に辿り着きまして、10月リリースにこぎつきました。
ただ、普段kintoneサービスを開発するときはサイボウズさんにお伝えしていないのですが、今回は我々もサイボウズさんと意見を交わしたうえ、エンタープライズ企業にテストマーケティングを実施しました。
これも今までには絶対にしてこなかったことです。
中野氏:Smart at AIだけ先出ししようと思った理由とは?
植草:我々の今まで開発してきたプラグインは「こういうことができますよ」という固定機能がありました。
しかし、Smart at AIには機能はあるものの、どのような使い方ができるかはプロンプト次第、すなわちお客様次第な部分があります。
これはkintoneと同じで、お客様自身でどのように活用するか考えていただく、決まった色のないサービスです。
そのため、精度やニーズを確かめるために、事前に連絡・提供した次第です。
中野氏:確かに御社の受付システムなどではお客様のニーズも用途も明確ですが、Smart at AIのような場合、すべての用途を想定するのは難しいですもんね。
植草:そうです。
「こうやって使ってください」というよりも、「どうやって使うのがいいか」というお客様の意見が欲しかったんです。
中野氏:弊社も同じように開発のかなり早い段階からお客様にトライアルしていただき、フィードバックをもらって開発に活かしてきました。
ただ、いまだにAssociate AI Hub for kintone は試行錯誤の段階です。
なぜなら皆さんご存知の通り『AIモデルの進化が早すぎる』んですよね。笑
精度も上がり、値段も安くなり、スピードも早くなり、お客様のUX(顧客体験)まで変わってしまう状況です。
ですので、例えばAIの値段が高い頃、スピードが遅い頃の条件で開発を進めると、リリースした頃にはお客様にフィットしなくなってしまうんですよね。
その点が今でも非常に苦労しています。
植草:私たちも同じです。
一例ですが、Smart at AIは現在、AIモデルの切り替え(Open AIを選んだり、Geminiを選んだり)が可能です。
実は、この切り替え機能を導入する前、アメリカではどんなサービスができているのか調査し、将来を予測していました。
中野氏:なるほど〜。Associate AI Hub for kintoneも将来はモデルの切り替えをやりたいですね。
MSOL:安くなったり、早くなったりというお話がありました。
読者でぶっちゃけ聞きたい!という方もいるのではと思うのですが、AI利用料が安くなっても、サービスのお値段が変更されるということはないのでしょうか?
中野氏:基本的に値下げはしない予定で、むしろ値上げしたいくらいです。笑
もちろんコストは下がっていくでしょうが、コストがこれくらいで、利益をこれだけ上乗せをするという価格設定にはしていません。
私たちは「価値」をお届けしており、その価値に見合った価格でご提供したいと考えています。
植草:私たちも同感です。
o1モデルでは1回の生成で数百円かかることも当たり前ですし。
中野氏:ちょっと使うと1,000円くらいになってビックリですよ。
植草:Associate AI Hub for kintoneとSmart at AIの値段設定は「1回でいくら方式」ですけど、AIサービスには「トークンでいくら方式」というものもあります。
「トークンでいくら方式」だとユーザーは『トークンって何?』状態になってしまうし、「1回でいくら方式」だと、ユーザーが何文字入力・出力しようが関係ないので、結構大変ですよね。笑
中野氏:お客様へはわかりやすい価格設定にしたいですもんね。
サービスを提供しているからこそ感じるAI市場の変化
植草:1年間やってきまして、Smart at AIは無料版を含めて500件のお申し込みをいただきました。
直近では400から500への増加が非常に早く、AI活用を試みる方は着実に増えているんだなと感じています。
あと昨年は『AI買ってこい!』と、会社命令で購入された方が多かった印象です。
なので、買ってから活用方法を探すみたいな方々ですね。
それが最近は「どうやって使おうか、こう使いたいんだけど」という感じで、吟味しながら購入されている方が多くなりました。
中野氏:そうなんですね。
Associate AI Hub for kintoneは正式リリースして間もないため、カスタマイズという領域ということもあり、まだまだこれからという状況です。
とはいえ、植草さんのおっしゃる通り、AIカスタマイズにおいても着実に利用者は増えている状況でございます。
見えてきたAI導入への壁
中野氏:Associate AI Hub for kintoneの機能の1つであるカスタマイズですが、コードの中身を理解している人が使わないと『改修できるのか、セキュリティ的に問題ないのか』などのチェックができない点があります。
そういう意味では「完全にAIに任せる」のはまだ早いのかなと、壁を感じております。
植草:Associate AI Hub for kintoneは事業部が利用するというより、情シスが利用する方が近いということでしょうか。
情シスが活用し、確認して事業部に渡すような。
中野氏:その段階だと思います。
あるいはSIerやコンサルの業務効率化にご利用いただくのが良いかなと思います。
ただ、o1、o3の世界はもう目の前にあり、「人間が承認するだけで良い」という世界は、もう間も無く実現するかと。
植草:o1、o3のようなリーズニングモデル(論理的な思考や推論をするAI)は、生成に時間がかかるというウィークポイントがあると思います。
そうなった時、ユーザーは『生成完了まで待っていられないのでは?』と思っているのですが、その辺どうお考えですか?
中野氏:正直まだ対策中です。
ただ、Smart at AIだと「エージェント機能」がありますよね。
あれなら終業後に動かしておいて、翌朝確認するという使い方が可能ですから、その利用方法は良いですよね。
ただ、リアルタイムで待って使いたいとなると、なかなかの時間がかかります。
そうするとUX的にはよろしくないので「Associate AI Hub for kintone」は、どこでリーズニングモデルに切り替えるかは要検討ではあります。
※エージェント機能とは:日次・週次・月次の指定したタイミングで、自動的に生成を行うSmart at AIの機能 |
植草:おっしゃる通り、「エージェント機能」なら問題ないですが、やっぱりリアルタイムでも欲しいので、悩ましい問題です。
中野氏:高度な生成結果でPDCAをどんどん回したいという、お客様の需要は必ずありますね。
植草:例えばコード生成AIの「Cursor(カーソル)」や「GitHub Copilot」では、コード生成されている様子が可視化されており、バァーッと生成される様子は、一種のエンターテインメント化されているので待っていられるんですよ。
ディズニーランドで長時間並んでいても、途中でさまざまな飾りがあるので耐えられるというイメージです。
じゃあ、我々のサービスでも生成の過程を見せればいいのかというと、そうではないのかなと…
kintoneでAIをやる意味
中野氏:M-SOLUTIONSさんとサイボウズさんとの対談を拝見しまして、kintoneの「ノーコードで誰でもシステムを開発できるようにし、現場の非効率を無くす」という基本思想を拝見しました。
確かにkintoneでゼロからシステムを作成するのは容易ですが、変更やメンテナンス、他の人に引き継いだりするときに少し大変という話を聞きまして、それがkintoneの課題なのではと仮説を立てています。
その「kintone自体の課題」をAIで解消できることに、kintoneでAIをやる意味があると考えています。
植草:開発してくれるのもいいですが、『このアプリってなんだっけ?』という疑問に、「フィールドやデータの中身などを見て、教えてくれる」なんてことをアシストしてくれたら嬉しいです。
中野氏:実は植草さんのおっしゃったことを実現する「AIコンシェルジュ」という機能をリリース予定です。
『誰がどういう目的で作ったアプリだっけ』『どういうふうにアプリ間連携してるんだっけ』みたいなところを解決できる第一歩になればと。
MSOL:Smart at AIでは?
植草:Smart at AIはkintoneに蓄積されたデータを活用できるサービスです。
kintoneは主に事業部が使うツールであり、事業部が溜まったデータをいかに活用できるか、業務効率化できるのか。
それを誰でも簡単にAIを使って実現できるというのが我々のサービスのkintoneでAIをやる意味です。
kintoneがノーコードであるなら、Smart at AIはノープロンプト。
つまり使っているかも意識せずにkintoneのデータを活用できる「AIの民主化」というのが大きなポイントだと思っています。
今後のAIと各社サービスの展望
中野氏:AIモデルの性能向上、コスト低下、マルチモーダル(テキストや音声など、異なる複数の種類に)対応、リアルタイム化など、想像以上のスピードで進化することは間違いありません。
それをいかにサービスのコンセプトやロードマップに取り込むかが、最も重要であり、かつ難しい課題だと思います。
ただ、AIはあくまで便利なツールの1つです。
お客様の課題やニーズにどうメリットを与えられるか、ということを常に意識していく必要があります。
それを実現しようとしているのが先ほどお話しした「AIコンシェルジュ」です。kintoneといえばさまざまな伴走サービスがありますが、人間の場合、24時間いつでも一緒ではありません。
人間の場合、打ち合わせ中はすぐに聞けるけど、それ以外ではメール連絡で少し間が空いてしまうことも多いです。
でも、24時間いつでも一緒にいて、すぐに解決してくれるようなものが「AIコンシェルジュ」です。
kintoneヘルプを見れば分かるかもしれないけど、情報を探す手間、実行・設定する手間を省ければいいなと開発中でございます。
他にもAIモデル自体ではPCのデスクトップ画面を見て、AIが操作する機能なんかも出ています。
「AIコンシェルジュ」では、お客様のkintone画面をAIが見て、サポートするなんてことも目指したいですね。
植草:中野さんのお話であった「リアルタイム化」というのはSmart at AIよりも、Associate AI Hub for kintoneの方が強みだと感じました。それはUIが音声にも対応しているから。
『こんなアプリを作って。こんなデータを集めて入れて。じゃあメールして。』なんてことを、水晶玉に話せばやってくれるイメージです。
中野氏:ありがとうございます。
Smart at AIも添付ファイル対応されていますし、マルチモーダルだと思います。
しかも結構すぐに対応されていて、その早さには驚かされました。
植草:今はアップデートされましたが、最初は画像1枚だけでしたけどね。笑
1枚だけでもお客様から「こんな使い方もできないかな?」と色々アイディアが出てきたのは驚きでした。
複数枚やさまざまな添付ファイルに対応したので、これからどんなアイディアが生まれるのか楽しみです。
あと、2025年は「AIエージェント元年」なんて言われています。
Smart at AIもエージェント機能第一弾としてバッチ処理を搭載しましたが、第2弾、第3弾と、よりマルチモーダルに、もっと複数のタスクをこなしていくことを目指しています。
※AIエージェントとは:設定された環境や受け取ったデータに基づいて、特定の目標を達成するための行動を自律的に選択するために設計されたプログラムやシステムのこと。 |
植草:なので、Associate AI Hub for kintoneがリアルタイム化なら、Smart at AIは気づいたらデータが戻ってくるエージェント機能での強化になるかなと。
実際にエージェント機能を社内で使ってみて、「データが勝手に貯まる」という従来のkintoneとは全く異なる感覚を体験しています。
今までのkintoneは意識してデータを貯めていくというツールだった。
それが、やりたいことを言えば勝手にデータが出来上がるというところに、どれだけ近づけるかというのが、Smart at AIの今後のポイントの1つかなと思います。
まとめ
予想できないスピードで進化を続けるAIモデルに対応し、開発を止めない各社サービス代表の対談はいかがだったろうか。
目の前でkintoneの課題を解決してくれるリアルタイム性の「Associate AI Hub for kintone」と、エージェント機能で自動でデータが蓄積される未来を目指す「Smart at AI」。
両サービスは、AIモデルの進化に伴い、自然と差別化された独自の魅力を発揮し始めている。
中野氏が「AIはただのツール」と語ったように、ユーザーは各サービスで何が実現できるのか、どの課題を解決できるのかをしっかりと見極めていかなければならない。
そのためにも本対談が少しでも役に立つと嬉しく思う。
各社のサービスに興味が出たらぜひ、問い合わせてみてほしい。
株式会社ショーケース:「Associate AI Hub for kintone」に関するお問い合わせはこちらから。
M-SOLUTIONS株式会社:「Smart at AI」に関するお問い合わせは下記からどうぞ。
そのほかの対談記事もぜひご覧ください。