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【対談】AIの台頭によってプログラマーは不要に?老舗SIerに聞く、システム開発のこれからとは
ノーコードツールであるkintoneを利用したシステム開発は、まだまだ需要がある一方、AI技術の進化によって、ネット上ではたびたび「プログラマーの仕事は不要になる」と言われている。
今回、kintoneを提供するサイボウズ株式会社から開発実績を評価されたエンタープライズパートナーである、アールスリーインスティテュートCIOの金春氏と、M-SOLUTIONS代表の植草に「kintoneシステム開発×AI」をテーマに対談していただいた。
お二人の視点から、AIを活用したkintoneシステム開発の未来像や、ユーザーにとっての新たな活用方法、またプロのエンジニアとしてどのようにAIと共存していくべきかについて語り合う。
AI時代において、kintoneシステム開発は無用の長物となるのか、その真相に迫る。
kintone黎明期からの戦友
金春氏:アールスリーインスティテュート(以下、アールスリー)で取締役Chief Innovation Officerを務めています金春(こんぱる)と申します。
アールスリーは2000年に創業し、25年目になります。
創業当時はゴリゴリのシステム開発を行っていましたが、2014年からサイボウズのパートナーになりまして、kintoneのシステム開発が事業の中心になっていきました。
kintoneのシステム開発の経験を経て、gusuku Customine(グスク カスタマイン 以下:カスタマイン)やgusuku Deploit(グスク ディプロイット)が誕生しました。
M-SOLUTIONSや、植草さんとは2015年頃からの付き合いでして、当時は我々パートナー企業がサイボウズの出展する展示会にkintoneの説明員として参加していました。
kintoneの黎明期からの戦友みたいな関係だと思っています。
アールスリーインスティテュート 取締役Chief Innovation Officer:金春氏
植草:もちろん私も戦友だと思っています。
ちなみにアールスリーは、金春さんが声を挙げて共同創業された会社ですよね。
なぜ、CEOではなく、CIOなんですか?
金春氏:正直、私が社長ってキャラではないからですね。(笑)
取締役が3人いますが、私は新しいビジネスを作ったり、突拍子もないことを言ったりして、会社に変革を起こす役割を担っています。
植草:ちなみに突拍子もないことと言うと?
金春氏:カスタマインもですが、先月発表させていただいたgusuku Everysite(グスク エブリサイト)も私が発端です。
最近のカスタマインでは、Open AIを呼び出すカスタマイズや、適格請求書発行事業者情報を取得するカスタマイズなんかも私が発端です。
植草:AI連携は金春さんのアイディアだったんですね。
カスタマインは出た当初から、分かりやすいUI・アーキテクチャで素晴らしいサービスだなと思っていました。
カスタマインとは:JavaScriptの知識がなくとも、ブラウザで「やること」と「条件」を選んで組み合わせるだけでkintoneをノーコードでカスタマイズできるkintone連携サービス
M-SOLUTIONS株式会社 代表取締役社長CEO:植草
金春氏:それでも当時は色々と言われましたよ。
当時のプラグインの多くは「機能を提供する」ものでした。
その点、カスタマインは「作る(カスタマイズする)環境を提供する」ものなので。
当時は価格の安いプラグインも多かったので、カスタマインの価格は高いと感じられることも多かったです。
植草:もちろん安いものを否定するわけではなく、さまざまな商品があることで、お客様の選択肢が生まれるのでいいことだと思います。
ただ、お客様からしたらボタンを押したら動くだけかもしれないですけど、「そのボタンを押した結果生まれた価値」に対する価格提供をしたいですよね。
金春氏:そうそう。
ITのプロダクトって機能を売っちゃダメなんですよ。
その機能から生まれる価値や環境、さらには文化を売らないといけない。
AIの台頭とそれに伴うkintoneとシステム開発について
金春氏:kintone×AIで言うなら、kintone内の議事録で利用するみたいなパターンは考えられますが、もう少しキラーユースケースが欲しいですね。
植草:『絶対これで使って!』みたいな鉄板ユースケースが何個か欲しいんだけど、AI自体にもまだ無い。
問い合わせの回答案作成も便利だけど、100点の回答案を出せるわけではないですからね。
とはいえ、kintone×AIが盛り上がってまだ1年。まだまだ序章ではありますから。
M-SOL:システム開発においてはどうでしょう?
金春氏:自分でJavaScriptを書ける人は、どんどん使っていいと思います。
ただ、私が心配なのはコードが書けない人や、読めない人がAIを使って『kintone動いたらヨシ』ってなるのは危険だと思っています。
特にkintoneってアプリを改修していくもの。
改修していく中で動かなくなるというケースは十分に考えられるので、システム開発においてはまだまだAIはマッチングしないかなと思います。
植草:お客様の課題を解決するのがシステム開発です。
コードを書くのは手伝ってくれるけど、開発っていうのは現時点では難しいと思います。
金春氏:我々は長年の経験でいろいろなシステムを理解し、業務をどう改善すべきかというところも知っています。
そこで思うのが「やらないことを決める」ことがとても重要ということです。
開発においてお客様からのいろいろな要望を叶えると、膨大なお金や時間がかかるんです。
そこを切り分けられるのがSIerですし、これはAIにはできない部分です。
AIの台頭によって、SIerは上流工程の比重が増えていく、生き残る肝になると思っています。
植草:その通りですね。
分かりやすく言うなら『開発します』から『こういう改善をするとこういう価値が出ますよ、だから費用はこのくらいですよ』というアドバイス・コンサル的な側面が強くなっていくと思います。
金春氏:植草さんの言っているようなことを今年リリースした「キミノマホロ」で始めています。
開発よりも要件定義に重きを置いているサービスです。
そして、実は近日中に、お客様自身でも要件定義などができるようになってもらうための、最上流工程をやるワークショップを無料で開催予定ですので楽しみにしていただければと思います。
植草:それは素晴らしいですね!
kintoneユーザーとしてはカスタマイズにAIを使うべき?
金春氏:ユーザーも先程と同じで「JavaScriptが読めなくて、何が何をしているのかが分からない」のであれば、やめた方がいいと思います。
セキュリティの問題とかありますからね。
植草:私も同意見です。
違った視点で言うと、kintoneはデータを溜めて、分析したり検索したり、別の形に変えたりというプラットフォームです。
基本機能で足りないところがあるなら、システム開発やプラグインを使ったほうが良いかなと。
カスタマイズでAIを使うというよりも、溜まったデータに対してAIを使うという考えのほうが良い。
なので、AIの進化を見据えてデータをkintoneに溜め込むのが大事なんじゃないかな。
M-SOL:データを溜め込むのも大変ですが、大事ですよね。
植草:今は手動でデータを入力しているから大変ですが、いずれは手動で入力しない時代がくると思います。
すでに入っているデータやフィールドからAIが意味を理解し、自動でデータを貯めるようになる、そんな未来もくると思いますよ。
金春氏:記録されているデータと、カレンダーの予定が紐づくと嬉しいな。
「昨日のアレどうだった?」と調べたら、昨日のカレンダー情報からAさんの案件だなと判断してくれたら最高ですね。
植草:日本人っぽい質問(笑)
AIとは毛色の違うカスタマイン。AIとの共存はあるのか
金春氏:現状ではOpen AIを呼び出せる機能はあります。
現在、カスタマインユーザーはカスタマイズ設定をして、カスタマインの設定を作り上げている状況ですが、その設定をある程度AIで実現できる可能性はあると思っていて、トライしてみたいなとは思っています。
ただ、簡単ではなく、膨大な作業が必要なので、まだ手をつけてはいない状況です。
植草:できそうな感じはしますけどね!
金春氏:できるだろうなと思っていますが、まだ道のりは遠いかな。
カスタマインで書くコードは単純にAIで生成されたものよりは安全ですし、より非ITの人に貢献できると思います。
現段階では出力されたものも良くて90%くらいかなと思います。
そうするとお客さんが、残り10%を自分で直さないといけないから、今後のAIの進化に期待です。
Smart at AIはシステム開発で使われる可能性はあるのか
植草:コードを書いてもらう使い方は想像できないですね。
ただ、カスタマイズしなくても付け加えられる機能の代用はできると思っています。
例えば翻訳機能の追加をカスタマイズすると、『APIをコールして〜、ボタンをつけて〜、フィールドに書き込んで〜、これは安全なのか?』とかいろいろ考えないといけないですが、そういったものならSmart at AIで簡単にできちゃいますからね。
いろいろな利用ケースが増えてくれば、そのカスタマイズの代用例っていうのも分かってくると思います。
金春氏:システム開発でSmart at AIでやってくださいという案件はあるんですか?
植草:現時点では社内体制的にも、わざと提案していない状況です。
開発メンバーがお客様の課題を解決するために、AIを使うノウハウを確立してからかなと思っています。
Smart at AIの利用者が増えて、鉄板の利用用途が増えてきたら提案できるかな?という感じです。
Smart at AIとは:誰でも簡単・安全・効率的にkintoneの情報(データ)を用いてChatGPTなどの生成AIが利用できるようになるkintone連携サービス
AIの台頭によるシステム開発の未来は?
金春氏:AIがもう少し進化すればある程度のアプリ開発はできるようになると思っています。
ただ、現在M-SOLUTIONSやアールスリーがシステム開発をしているようなレベルになってくると、まだまだ我々のような職人は必要だと思います。
キミノマホロでは「業務改善の始まり」と呼んでいますが、要件定義などの最初のフェーズは、まだまだ人間が頑張らないといけない領域です。
そこで高い価値を作り、作成するところではAIを使って効率化していく。というのが直近のkintoneシステム開発の未来だと思います。
植草:これから大規模開発は減って、マイクロサービスが増える気がしています。
そのマイクロサービスを作る補助も、すでにAIがしてくれるようになり、プロトタイプを作るのも早くなっています。
私はそういったサービスをツールとして、うまく使っていくことがシステム開発において大事になってくると思います。
kintoneは熱狂的なファンがおり、顧客満足度も高いのに、なぜもっと広まらない?
植草:マイクロサービスが増えるというお話をしましたが、kintoneもユーザー数がもっと増えてもいいのになって思いません?
金春氏:そうですね。
でもkintoneって、自分たちで“作らないといけない”サービスです。
それが何十万〜何百万社が導入しているようなサービスとの違いかな。
ただ、kintoneって熱狂的なファンが多いじゃないですか。
あれはIKEA effect(イケア効果)だと思っています。
IKEAの家具はすごく高品質ということはないけど、お客様満足度が高いんですよ。
それは「自分で組み立てるから」なんですって。
植草:私も聞いたことがあります。
自分で作ると満足度が上がるっていう認知バイアス。
金春氏:そうそう。
カスタマインもだけど、kintoneってまさにそれ。
自分で作るから熱狂的なファンが生まれる。
でも、作るっていうハードルがあるからユーザー数が増えにくいみたいな感じかな。
植草:そうなってくるとセミオーダーみたいなものがあれば、kintoneユーザーはもっと増えていくのでしょうか。
金春氏:どうでしょうね〜。
やれば自分で作れるのに、出来上がってるものを買うのは抵抗ある人もいそうです。
IKEAの家具でいうなら、自分で組み立てれば定価だけど、〇〇%増の完成品は抵抗あるっていう方は多いんじゃないかな。
植草:確かにそうですね。
そうなると同じプラットフォームだけど、違うブランドとして出すのがいいのかも。
金春氏:だから逆にAIがものすごい進化をして、なんでもできるようになったら楽しくないのかもしれませんね。(笑)
今が一番楽しい時期かも。
植草:それがコモディティ化するということですよね。
数も増やす、ファン化させるということでは両立させることも大事ですが、ソフトバンクグループ、M-SOLUTIONSとしては、ぜひコモディティー化させたい。
Smart at AIに限らず、我々のテーマでもある「AIの民主化」、知らぬ間にAIを使っている社会に向けて頑張っていきたいです。
ユーザーはどのような視点やスキルを持って、AIとkintoneに向きあえば良いか
金春氏:現状の生成AIにおいてはプロンプト、言葉でちゃんと指示をしてあげないといけないので、国語力が大事だと思います。必要な情報を、的確な文章で伝える力が必要です。
でも、このスキルはAI時代を生き抜くためではなく、ビジネスにおいての基本。
もしかしたらAIを意識して、このスキルを磨ければ日本の生産性が上がるかもとすら思っています。
植草:言いたいことの5%くらいしか伝わっていないって言いますからね。
確かに短期的に見るとプロンプトを書く力や国語力が大事になってくると思いますが、長期的に見ればプロンプトも書かない、コミュニケーションにもAIが関わってくる、そんな時代になると思っています。
そんな時代でも最後の意思決定をするのは人間。
意思決定や判断力、責任感、もっと言えばパッション(情熱)がより一層大事になりそうな気がしています。
対談を終えて
AIの進化がkintoneのシステム開発やカスタマイズにどのような変革をもたらすのか、またその中でAI活用の可能性と課題をどう捉えるべきか、さまざまな観点から深掘りされた対談だった。
お二人ともAIを活用し業務の幅が広がることで、ユーザーに新たな価値を提供することが大事であり、AIが進化すれば、SIerが果たすべき「課題解決力」や「価値創出」はますます重要になるという見解を示した。
この記事がkintoneをユーザー自らカスタマイズしたい人、kintoneのシステム開発に携わる人の参考になれば嬉しく思う。
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